今東光『毒舌日本史』、文春文庫、1996年はとにかく面白い、オススメの一冊です。
今さんは直木賞作家、天台宗大僧正で中尊寺の貫主、さらには参議院議員も務めた非常にスケールの大きな人物です。
どんな人に読んで欲しいかというと
*歴史の本に興味はあるけど、かた苦しいのは苦手な人
*ある時代や一人の人物だけだと飽きてしまう人
*通読しなくても十分楽しめる本を求めている人、などの読者にオススメです。
その理由は
*対談なので、今さんの「べらんめえ口調」がそのまま活字に活きている。
*舞台は古代史から幕末まで、登場人物もさまざまで刺激がある。
*目次を見て、興味のある時代・項目から読んでも楽しめる。
本の内容に触れる前に、今東光さんについてもう少しエピソードを。
実は、今東光さんは、あの瀬戸内寂聴さんの師匠にあたります。
寂聴さんの「聴」の字は、今さんの法名である「春聴」からいただいたもの。
瀬戸内さんが「春聴」の二文字から、「聴」のほうを選びました。
後日、「聴」にふさわしい漢字はなんだろうか?と、今さんが座禅をして閃いた漢字が「寂」でした。
こうして瀬戸内さんの法名が「寂聴」に決まったのです。
今さんの物凄い博識から生まれた『毒舌日本史』をかんたんに紹介するのは大変です。
とにかく博覧強記で、縦横無尽の語りの中で時代や舞台が目まぐるしく変わることもあります。
文学や仏教の話には耳慣れない話題や専門用語が登場することもしばしば。
いきなり「易経」の話題が入ったり、漢の時代の学者と川端康成を関連づけたりするので、「え?」と、とまどうこともあるでしょう。
でも、のちに触れますが、難解なところには注があるのでご安心を!
とはいっても、いくら読んでも私には理解できないところもあります。
今さんの世界があまりにも広大すぎるのです。
さて、この凄い書『毒舌日本史』の魅力を、おそるおそるではありますが、以下のようにまとめてみました。
1 学校で教えない日本史
2 日本史以外のエピソード
3 著者が天台僧ならではの秘話
4 豊富な注が魅力のひとつ
1 学校で教えない日本史に刺激される。
*『古事記』は、おおらかに性を描いている、いわば性書である。
せきれいの交尾を見て興奮して、その真似をしてことに及んだとか、男女の営みの場所が便所であったりなどの例を出して、人間味あふれる『古事記』を讃えています。
*一般に偽書とされる『先代旧事本記』を高く評価する視点が興味深い。
この書によると、蛭子は「日霊子」であり、もうひとり「日霊女」もいて、、、
こういうのは学校ではまったく出てこない情報ですね。
さらには「物部神道」、「葛城神道」など初耳の用語。
ただただ、圧倒されます。
*藤原氏の始祖は鎌足ではない。
え?学校で、鎌足だと習いましたが、、、
このくだりは、ぜひ本書でお読みください。
2 日本史以外のエピソードも豊富。以下に具体例を少し。
*ローマ皇帝ネロは避暑地でエネラルドのサングラスをかけていた
*かつてエジプトにはクレオパトラ個人用の鉱山があった
*クロムウェルは死後、寺院に葬られたが、のちに発掘され晒し首になった
*ソビエト連邦の崩壊(1988~1991年)を予言?
この本の単行本初版は1972年ですが、その中で旧ソ連の崩壊を予言するような発言をしています。
このくだりも、ぜひ本書でお読みください。
3 著者が天台僧ならではの秘話が満載です!
*天台宗に「一実神道」という天台系統の神道説があり、天海が江戸時代におおいに宣伝して、秀忠をはじめ重臣たちにこの神道学を披露した。
これが家康に「東照大権現」の神号がおくられた背景となった。
*上に関しては、禅僧の崇伝が吉田神道と相談して、家康を「明神」として神社にまつる、という案を出したが、秀忠が天海案を気に入り採用した。
*源平の争いは、平氏が延暦寺と気脈を通じていた一方で、源氏は天台の別派である園城寺を祈願寺とした点にも見られる。
*信長が比叡山を焼き討ちした後、延暦寺の高僧が武田信玄に接触して比叡山再興を依頼した。
この要請を信玄は快く受け入れたが、一つの条件をつけた。
その条件とは?
このくだりも、ぜひ本書でお読みください。
他にも、中尊寺と奥州藤原四代を解説したところや、後醍醐天皇を中心に護良親王、楠正成、僧文観などの活躍を描いた南朝の物語には今さんの熱い想いを感じます。
4 豊富な注が魅力のひとつです。
*難解な用語や固有名詞には著者自身による注がついています。
具体例をひとつ、「台密」の説明の注です。
⇒『台密 天台宗の真言密教。天台宗は円頓禅密の四学を統べているがその中の密教を指して台密という。これは高野山の真言密教と区別するための名称である』
*注は様々な分野に及び、総数は300を超えています。
注を拾い読みするだけでも、相当勉強になります!
『毒舌日本史』の魅力をおそれげもなく、四つの点から紹介させていただきました。
何度読んでも、圧倒される書物です。