時々、違和感を覚えることがあります。
willを「だろう・でしょう」と訳す人がけっこういませんか?
普通、学校英語ではwill には単純未来と意志未来の二つの用法があると説明していて、前者は人の意志に関係なく「自然に・勝手に~になる」場合で、後者は文字通り「自らの意志をもって~する」という区別があります。
いずれにしろ、「だろう」や「でしょう」という訳語とは相性が悪いと思うのですが。
当ブログだけがこう言っても説得力がないので専門家の力を借ります。
毎度おなじみ?、語法書として定評のあるMichael Swan 著 “Practical English Usage” からポイントを引用します。
同書のwill を説明した部分から必要な項目とその説明を列挙します。
蛇足ながら、拙訳を( )内に追記しておきます。
*certainty(必然性)
Will can express certainty or confidence about present or future situations.
(will は現在もしくは未来の状況についての必然性または確信を表すのに用いる)
*willingness and decisions(意欲及び決断事項)
Will can express the speaker’s willingness, or announce a decision.
(will は話者の意欲を表したり、決断事項を発言するのに用いる)
Will can express a firm intention, a promise or a threat.
(will は強い意向、約束、または脅しなどを表すのに用いる)
「必然性」や「意欲」や「決断」というwill の説明と日本語の「だろう」とか「でしょう」という訳し方がつながるようには思えません。
では、例文を挙げながらみていきます。
I will be eighteen next birthday. 今度の誕生日で18歳になります。
これを、「18歳になるでしょう」と訳したら、え?と思われますよね。
人が18回目の誕生日に18歳になるのは「必然」ですから。
別に主語が二人称だろうが三人称だろうが同じことです。
Apollonia will be eighteen next birthday.アポロニアは今度の誕生日で18歳になります。
いわゆる単純未来は条件を表す文でもよく使われます。
If you heat ice, it will turn to water. 氷を熱すると水になる。
If I drop this glass, it will break. このグラスは落とすと割れてしまう。⇐これを「割れてしまうでしょう」と訳したいのならば、英文自体を、If I drop this glass, it will probably break. あたりに変える必要があります。
つまり、元のit will break は「必ず割れてしまう」という話者の確信が入っています。
I really will stop smoking. 本気で禁煙するつもりだ。
これを、「禁煙するでしょう」とか「禁煙するだろう」とか訳したら、本気でやる気あるの?と思われます。
Dr. Watson will see you now. 今からワトソン先生の診察です。(今から、ワトソン先生が診てくれます。)
これを、「診察するでしょう」とか「診てくれるだろう」とか訳したら、確定じゃないの?と思いませんか。
そもそも、いわゆる意志未来が文字通り、強い意志・意向・決意を表すので、否定文で「拒絶」を表したり、「傾向・習性」などを表現できるのです。
要は、拡張機能ですね。
意志の否定(~するつもりはない)⇒「決して~しようとしない」という「拒絶」につながります。
She won’t open the door. どうしても彼女は玄関を開けようとしない。⇐これを、「開けないでしょう」と訳したら受験では0点です!
The car won’t start. 車のエンジンがどうしてもかからない。無生物を主語にできるのが英語らしいですね。
常日頃から、ある「意向」を持っている⇒「傾向・習性」につながります。
She’ll listen to music, alone in her room, for hours. 彼女は自分の部屋でひとり、何時間も音楽を聴くことがよくある。
Sulphuric acid will dissolve most metals. 硫酸はほとんどの金属を溶かす(性質がある)。これも、無生物を主語にしています。
このように見てくると、そもそも日本語の「だろう」や「でしょう」は「不安定、不確実、推測」などを表すのに用いるのが普通ですから、will が表す「必然性・意志・意向・習性」、will not が表す「拒絶」とはとても相性が悪いことが確認できると思います。
今回はこのあたりで失礼しますが、この件に関してはもう少し材料がありますので、また時間をみて第二弾に挑戦してみたいと思っています。