「腹減ったなあ~、なんか食べに行かないか」
「おう、何にしようか、、、」
十代後半から二十代前半の寮生たち。
寮の夕食を食べていても、10時頃にはもう何か腹に入れたくてソワソワしてくる。
「志賀飯店か、牛丼か、久保田か、美ゆきか、、、」
「久保田と美ゆきだと、本格的に飲んじゃうな~」
「志賀飯店も同じだよ、ビール1本でも頼んだら止まらないぞ」
そう、夜食のメニュー決めもまた楽しいひと時ですよ、懐が暖かい時は。
「華名閣でポークとビールはどう?」と剣道部の松木。
「おまえ、金あんのか!」
「うっ、、」
ここで、ずっと黙っていた谷が「ボク、あそこのパブみたいなとこ行ってみたい」
「お、そうだな」
「俺もあの店気になってたんだよ」という風に賛同者多しで、決定。
店内の照明は暗めで、テーブル席やカウンターに社会人らしき客がチラホラ、こじゃれた雰囲気はいつも行く居酒屋や中華とは明らかに違う。
皆、口には出さないが、やや気おされた感じで大きなテーブルに着く。
店内をジロジロ観察していると、お冷をもった店員がやってくる。
「ご注文がお決まりになりましたらおよびください」
さてと、メニューを見ると、「ビール(小)500円」とある!
おいおい、久保田や美ゆきの大びんよりも高いよ!
「国産ビールは小瓶だけだな、あとは外国のやつか、、、」
「飲んだことないけど、このバドなんとかにするわ」
「じゃ、俺、このハイなんとかにする」
もともと夜食目的なので、それぞれハンバーグやスパゲッティあたりを見ていると、ふと「病気ランチ」という名前が。
夜だけど、ランチ?、でも夜メニュー表にあるから大丈夫そうだな。
それぞれなじみのない外国のビールでとりあえず、乾杯。
なんか、落ち着かない様子の全員。
しばらくすると、ハンバーグやスパゲッティやピザトーストなどがテーブルに並ぶ。
「病気ランチのお客様」の声に小さく手を挙げると、目の前に大皿がドーン!
何、コレ?
皿の半分はピラフでもう半分にはパスタ、でその上にカレーがかけている。
さらに、その上にハンバーグとトンカツが鎮座ましましている!
こりゃ、確かに「病気」だな!
全員、目を丸くしている。
長崎出身の川口だけは冷静に長崎の「トルコライス」に似てるな、と言う。
スマホもネットも無い時代。
そもそも、トルコライスを知らないよ。
で、味はと言うと、これがなかなか美味い。
今は情報があふれているから、すぐに正体がつかめるけれども、昔はご当地グルメなんて結構ミステリアスでした。
それぞれ、ビールと夜食を楽しんだものの、やっぱり、なんか居心地が悪い。
店がオシャレ過ぎていて(その割には病気ランチは店の雰囲気にそぐわないが)、皆イマイチノリが悪い。
長居せずに、店を出ると、誰からともなく、「もう、一軒行くか」
「おう、美ゆきにするか、東田もバイトに入ってるから」
美ゆきに入ると、「いらっしゃいませ」と東田の大きな声。
これ、これ、やっぱり行きつけの居酒屋が学生には合ってるよ。
全員、生ビール大ジョッキで改めて、乾杯!
こうして、今日も我らは楽しく飲むのです。
あれ? 夜食だけのはずだったんじゃ?