「東田~、東田~!」
寮の廊下に中谷先輩の大声が響いてくる。
「東田~、早く来てくれ~!東田~!」
川口の部屋で西川、東田とテレビを観てたところ。
「東田、中谷先輩が呼んでるぞ、行って来いよ」
「いや、行かんでええ」
はは~ん、という顔の川口が「例のアレ?」
東田がうなづく。
「でも、行かなきゃ終わらないぞ」と川口。
事情が呑み込めないこちらは興味津々。
そうこうしているうちに、再度「東田~、東田~!」
「しゃあない」と東田が腰を上げる。
よし、ついて行ってみるか。
なんと、声の出どころはトイレ。
大用のトイレのドアが半開きで、隙間から顔を出した中谷先輩が「不敵な笑み」を浮かべている。
「東田、俺が今なにをしているか、わ・か・る・か?」
「用を足しているに決まってるでしょ」
「大か小か、どっちや?」
「大便器だから、大に決まってるでしょ」
「正解や!」
「で、先輩、用件はなんですか」
「用はない!」
やれやれ、といった表情の東田がこちらに振り返る。
え?え?と思いつつ、川口の部屋にもどる。
そうです!
自分が大をする行為中に東田を呼びつけるという、ただそれだけ。
自分が「大便器」使用中の事実を東田に知らせるためだけに大声を出す。
このお方こそ、「我が寮が世界に誇る変態」中谷先輩でございます。
「なんの意味があるの?」
「意味なんかあるか~、ただの変態や」と東田。
この中谷先輩、イケメンなんですよ。
女性にモテるんです。
しかし、変態!
だけど、後輩は可愛がるし、後輩からも好かれている。
バイト先のバンを自家用車代わりに乗り回し、いろいろ遊んでくれましたね。
レバニラ炒めが大好きで、よく食べに連れて行ってくれました。
なぜか、一時期、夜に霊園めぐりするのが中谷先輩のマイブームになって、時々お付き合いしましたよ。
ある日、先輩と東田、川口と深夜にとある霊園へ。
なんか、今にして思えばずいぶん罰当たりな行為ですね。
すると、東田が川口になにかそっと耳打ちする。
川口からこちらに、「東田が中谷先輩にドッキリをしかけよう、と言ってるけど」
「どんなドッキリだ?」
「俺ら三人でさっと車に乗って、中谷さんを置き去りにするドッキリ」
こちらも川口に小声で連絡。
東田の隙を見て、中谷先輩にもこっそり合図。
東田が車から一番離れたところで、三人で一気に車内に!
エンジン、スタートで急発進!
あわれ、仕掛けようとした東田は逆にまんまと仕掛けられました。
東田一人を深夜の霊園に残し、車は走る、走る。
車内の三人は大盛り上がり。
「車が発進するときの東田の顔、見た?」
「見た、見た、写真に撮りたかったな~」
「嵌めようとして、嵌められた、まあ、自業自得ですな」
「それ、それ!」
筋金入りの変態だけど面白くて後輩に優しくて気さくな先輩でした。
水晶浜では、我々に模範的なお辞儀の仕方を実演してくれるし。
安くて美味しい店をおしえてくれたり、バイト先を紹介してくれたり、いろいろお世話になりました。
中谷先輩、これからもずっと変態でいてください。
尊敬はしていません!
でも後輩一同、先輩が大好きです。
いろんな人(時には、変態)と知り合う場を提供してくれる学生寮。
寮生活って、本当に素晴らしいですよ!