田中康弘『山怪 参』ヤマケイ文庫

第一集につづき、今回は『山怪』の第三巻である。
現代版遠野物語とも呼ばれるこの『山怪』シリーズ。
よく読まれている。

それでも、わざわざ紹介したくなるのは、さらに多くの人に読んでもらいたいから。
別に、著者の関係者でも何でもないが、、、
この作品群を読むまでは、霊魂モノとか怪異モノに対しては懐疑的であった。
だが、これまで壱から参まで目を通してみて、感じるのは多くの話の行間からにじみ出るリアリティだ。

一人の体験談なら、幻視や幻聴だろうとか、ただのホラ話だろうとか、切って捨てることもできそうだ。
しかし、複数の人間が同じモノを視たり、同じ音を聞いている場合に、読者はどうとらえればいいのか?
また、見え方が違ったり、色が異なったりするケースもあるようだ。
さらには、人によっては何らかのカタチを目にしているのに、別の人には音しか聞こえていない事例もある。

例えば、「丑三つの少女」。
夜中でも緊急の場合は工事を行うハードな職場。
ある深夜、午前二時過ぎ、いわゆる「丑三つ時」である。
数十名の作業員が三組に分かれ、無線で連絡を取り合い、それぞれ作業をしていた。
すると、ある組に別の組から無線が入る。
「白い服を着た子供がいるから気を付けろ!」
現場は道もない山中、子供が一人で歩ける訳がない。
「白い服の女の子が歩いているから、気を付けろ!」と再度連絡が、、、
「そんな、馬鹿な!」と思いつつ、その現場に数人で向かう。
すると、十人ほどの作業員が立ち尽くしていた。
中には、ガタガタと体の震えが止まらない者もいる。
真夜中の山中で、全員がその白い服の少女を目撃したのだ。
昼間でも人が入れるような場所ではないのに、、、、

狐火に関しては、「赤の狐火」と「青の狐火」に大別されるらしい。
今回は、人(性別)によって見え方が違う?という話を一つ。

本書の「狐火いろいろ」から。
ある街道沿いの集落での話。
二人の男性が、街道を歩いていると、家の屋根の上を飛んでいくバスケットボールぐらいの狐火が現れた。
「ふわ~っふわ~っ、って感じで飛ぶんですよ。本当に、ふわ~っふわ~っ、って感じで」
男たちの20メートルほど前には、二人の女性が歩いていた。
つまり、同時に4人がその狐火を見ていたことになる。
男二人は狐火の後を追ったが、別の藁ぶき家に吸い込まれるように消えた。
女二人は恐怖に震えて、家まで送ってくれと懇願する。
怖がる女たちを送る途中に確認すると、男には青色に見えた狐火が、女たちに言わせると、赤色だったという。
同じ狐火を目撃していながら、男女で違う色に見えたのは、一体なぜ?

また、いわゆる「座敷わらし」のケースでは、その姿が見える人と、足音だけが聞こえる人に分かれるらしい。
霊感?の強弱によるものなのか、、、

これ以上、内容を紹介するとネタバレでよろしくないから、細かい説明は避けたい。
この第三巻には、全部で74の話が収録されている。
不思議な話。
怖い話。
大蛇、狐、熊、ツチノコなどなど、今回も様々な生き物やUMA?が登場したり、しなかったり。
心霊ものエピソードもいろいろ。
どの話が一番印象に残るか、一番怖いと思うか、人によって異なるだろう。

とにかく、読まないことには、この『山怪』シリーズの怖さと魅力は伝わらない!
もっと、もっと多くの人にぜひ手に取ってもらいたい。
別に、著者の関係者でもなんでもないが、、、