銃社会アメリカ その1

アメリカは銃社会である。
換言すると、銃によって多くの人が命を落とす国である。

この記事を作成中の10月25日、メーン州ルイストンで複数の銃撃があり、22人が死亡して、50人以上が負傷。
容疑者は現場から逃走したというニュースが報じられた。

毎年、アメリカでは多くの人々が銃の犠牲者となるが、2021年には、銃が原因で死亡した市民の数は実に約4万8000人である。
これは、米疾病対策センター(CDC)の発表によるものだ。

また、2020年の殺人件数全体の中で銃関連の殺人事件が占める割合を国別に比較すると

アメリカ=79%
カナダ=37%
オーストラリア=13%
イギリス=4%
(出典:米疾病対策センター、英下院、カナダ統計局、オーストラリア犯罪学研究所)

アメリカの数値は異常なまでに高いと言わざるを得ない。

なぜ、アメリカでは、これほど多くの人が銃が原因で亡くなるのか。

答は簡単、銃撃事件が頻繁に起こるからである。
また、それだけの銃がアメリカ社会に存在するからである。

アメリカの人口は約3億3200万人なのに、出回っている銃は約4億3300万丁である。
民間所有の銃が人口よりも多いのは、世界中でアメリカだけである。

なぜ、それほど膨大な数の銃がアメリカ社会に存在するのか。
国家全体、つまり連邦政府の規制が緩いからである。

では、なぜ連邦議会は規制を強化できないのか。
今回は、主に二つの理由(おそらく、皆さんご存じ)を挙げてみたい。

1 合衆国憲法修正第2条の存在

*A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.

「規律ある民兵団は国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携帯する権利は侵してはならない」

上記のように、米憲法に規定されているため、これを根拠に銃の保有を規制されたくない層が銃規制の法案をつぶそうとするのである。

ただし、この条文の解釈をめぐっては様々な意見・立場があるが、今回の記事ではそこまで触れる余裕はないので割愛させてもらいたい。

2 規制に反対する共和党議員+全米ライフル協会(NRA= National Rifle Association of America)のロビー活動

*全米最強のロビイスト団体と言われるこのNRAが、1で挙げた修正第2条を盾にして銃規制法案をつぶすために活動を行っている。

*約500万人の会員と豊富な資金力を持ち、ニクソン、レーガン、ブッシュ(父)などの共和党歴代大統領もNRAの会員。銃規制に反対する共和党議員に多額の献金を行う一方で、規制に賛成する民主党議員を攻撃する。

*1993年にクリントン政権は「ブレイディ法」(=銃購入前に犯罪歴等を調査する法)を成立させ、94年には「アサルト・ウェポン規制法」(=殺傷力の高い銃器の製造・販売を禁止した法)を成立させた。

*NRAはブレイディ法が、1987年に初めて提案されてから、成立阻止のためにロビー活動を活発化し数百万ドルを費やしたとされる。
法案成立のために、共和党とNRAに譲歩した結果、ブレイディ法もアサルト・ウェポン規制法も、それぞれ5年と10年の時限立法であった。
従って、ブレイディ法は98年に失効、アサルト・ウェポン規制法も2004年に失効した。

*共和党のマルコ・ルビオ上院議員はNRAから約330万ドル、故ジョン・マケイン上院議員は生涯に約770万ドル、トランプ前大統領は2016年の選挙で2100万ドル相当の献金を受け取っている、との調査もある。

以上の1と2がアメリカで銃規制が進まない主な二つの理由である。
別に、共和党とNRAを非難しているわけではない。

共和党に投票するのもNRAの会員になるのも、そのアメリカ人の自由意志である。
つまり、銃の保有・携帯を熱狂的に支持する一定の層が、アメリカ国内に存在するという事実こそが「銃社会アメリカ」の核である。

その銃肯定派のことは、テーマが大きすぎて今回は触れられない。

以下の記述は、一般常識レベルの「蛇足」である。

ただ、ごく大雑把に言うと、銃肯定派はその多くが白人保守派の共和党員であり、銃規制派はその多くが人種多様なリベラル派の民主党員である。

さらに、ごく大まかに分析すると、このアメリカの銃問題には個人の自由と権利、合衆国憲法の解釈・遵守、公共の安全などの大きな論点が複雑に絡み合っている。

今回は、「銃社会アメリカ その1」ということで、この程度にさせてもらえれば。
また、機会をみて、その2を書いてみたい(とは思っているが、、、)。