田中康弘『山怪 弐』ヤマケイ文庫 

最初に、お断りを。
私は、著者である田中康弘氏の身内でも友人でもない。
ヤマケイ文庫の関係者でもない。
純粋に、この『山怪』シリーズのファンである。

ということで、今回は『山怪』の第二弾を紹介したい。
これで、当ブログで『山怪』シリーズを合わせて三冊、お勧めすることになる。
とにかく、面白い!
そして、怖い!

これまでは、霊的なものや怪異ものには批判的・冷笑的態度をとっていた自分の考えかたを変えたシリーズである。
とにかく、どれか一冊読んでみて欲しい。
現代人の多くが自分では体験できない不思議な事象がそこには存在する。
目から鱗が落ちる、というか大げさな表現かもしれないが、常識を根底から揺さぶられると言うべきか、、、

当ブログの「読書感想」ですでに、『山怪』と『山怪 参』を取り上げた。
その際には、人間が霊的なもの・怪異に出会う系統の話を紹介させてもらった。
今回は、動物?にスポットを当てたものを、ネタバレご容赦!で少しだけ。
あ、それと、今回はあまり怖くないものを選んでいるので。

「鷹が見たモノ」から

自らを「鷹遣い」と称するある男性。
鷹を自分の腕に留まらせて人間との行動に慣れさせる「据え回し」という訓練を行うらしい。
通常、夜の11時頃から遅い場合は午前1時、2時まで行う。
「鳥目」という表現があるが、実は鷹は夜目が効くらしい。
とある夜、この男性が「据え回し」で鷹と山中を歩いていた。
突然、鷹がぎゅっと男性の腕を絞めつけた。
鷹が緊張したり怯えているときの動作である。
見ると、鷹の姿が普段より細くなっている。
「本当に恐怖に駆られたら、鷹も逃げるんだけど。そこまでではないけど、何かに反応している。明らかにおかしい」
鷹は闇の森を凝視している。
人の目には何も見えない。
男性が歩くと、それにつれて鷹の頭も動く。
つまり、鷹の両眼は闇の一点を見据えているのである。
鷹の視線の先に、何かがいる!
人間には見えないが、鷹を緊張させる何かが、、、
男性は語る、「それからも、同じ森で何回も据え回しをしたんだけど、いつも同じ場所で鷹が固まるんですよ。気になるから、昼間に確認しに行っても何も無いんですよ。普通の森で、、、なんか不思議ですね」

「犬を入れた訳」

猟歴四十年を超えるベテラン猟師の話。
ある日、猟の途中で女性の自殺死体を発見し、その回収作業を行った。
それから、異変が起こる。
「死体を見つけてから、毎晩だよ」
「何が、毎晩なんですか」
「金縛りだよ。来るな来るなって思っていると動けなくなるんだ。あれは悪い女だよ」
女性の霊?が毎晩、男性のもとに顔を出しているのか、、、
金縛りは一か月も続いた。
たまりかねた男性は
「犬を入れたんだ、家の中に。それまでは外で飼っていたんだが」
「で、どうなりました」
「うん、犬を入れてから何にも起こらなくなったよ」
その女性は犬が大嫌いだったのか。

今回は、あまり恐ろしくないエピソードをあえて選んだ次第。
もちろん、ぞっとする話も沢山あるが、それは読んでからのお楽しみ。
この『山怪 弐』には78の不思議な事象が収録されている。
ぜひ、手に取ってほしい。
『山怪』シリーズのファンがもっと、もっと増えますように。