読み始めて、実感したのは自分がいかにフィンランドについて無知であるかということ。
それこそ、「ムーミンやサンタクロースの国」「教育や福祉」といった漠然としたイメージしか持っていなかった。
著者は『はじめに』の中でフィンランドのニーニスト大統領の言葉を引用しながら、日本では同国について「平等」や「行き届いた教育」という面ばかりが強調されている、と述べる。
そして、同大統領の言うフィンランドの「たくましさ」「粘り強さ」「迅速さ」「力強さ」などの言葉の中に、同国の軍事や安全保障の分野における特徴が表れている、と指摘する。
本書のタイトル『フィンランドの覚悟』の『覚悟』とは、国の未来に対する危機意識が国民各層に共有されており、それが国防に対する真摯な姿勢につながっている事実を表現したものだろう。
従って、この新書の内容はひと昔前の(今も存在する?)「非武装中立論」を支持する層や「お花畑の人たち」と揶揄されるグループにとっては、読みたくもないし、また無視したいフィンランドの現実であろう。
では、あまり日本人になじみがなさそうなフィンランドの顔を少し紹介する。
* 徴兵制
⇒フィンランド憲法には「全てのフィンランド国民は、法律で定めるところにより、祖国の防衛に参加し、又はこれを支援する義務を負う」とある。
⇒18歳以上の男子に兵役がある。
その期間は最短で165日、最長で347日である。
* 女性には志願兵役
⇒1995年から女性に志願兵役が認められている。
2022年には過去最多の1211人が参加した。
* 総人口の約16%が予備役
⇒人口約550万人のフィンランドだが、戦時には28万人の兵力を30日以内に動員できる。
さらには、90万人の予備役が存在する。
⇒人口約1億2000万人の日本には予備役に相当する予備自衛官はわずか5万人しかいない。
* 高い国防意識
⇒2022年5月に実施された世論調査によると、フィンランドが攻撃された場合に祖国防衛に参加するとの回答は82%に上ったという。
以上のような事実はブログ主はこれまで全く知らなかった。
では、以下に、日本及び日本人が関係するエピソードを本書から少々。
* 1917年にフィンランドはロシアから独立するが、日本は資金援助と武器提供によってこれを手助けした。
* フィンランドのヘルシンキ大学には、宮沢賢治が同国のラムステット臨時公使に送った詩集『春と修羅』と童話集『注文の多い料理店』が現在でも所蔵されている。
* 「東洋のシンドラー」と称される杉原千畝は1937年からフィンランドの在ヘルシンキ公使館へ駐在している。
これは、実は、在ソ連大使館での勤務を命じられた杉原をソ連側が入国拒否したためであった。
他にも、一般の日本人がほとんど知らないフィンランドの歴史に関してもかなり詳しく解説しており、興味は尽きない。
ブログ主の勘違いでなければ、普通に高校で履修する「世界史」の中にフィンランドに関する記述は極めて少ないのではなかろうか。
もしかしたら、教科書の中に「フィン人」は用語として登場するが、「フィンランド」自体は記述が無かったのかもしれない。
こちらの誤認であれば、すぐに訂正する。
また、フィンランドのエネルギー政策に関する情報などもあり、読み応えのある一冊となっている。
これまで、同国に対して「教育・福祉・働き方先進国で平和な中立国」とのイメージを持っていた人には新鮮な印象を与えるはずだ。