九段理江『東京都同情塔』新潮社 ~ 芥川賞受賞作

例の「全体の5%ぐらいはAIの文章をそのまま使っている」という作者のコメントが独り歩きしている感がある芥川賞作品。
興味惹かれて、読んでみたところかなり面白い小説でした。

九段さんのAI使用について批判や非難している人たちに言いたいですね。
まず、通読してから批評すべきですよ。

さて、小説なのでネタバレにならないように紹介したいですが、最低限の情報は出さないと「読書感想」としての記事になりませんので、その辺はご容赦のほどを。

では、何点か気づいた点を並べて行きます、って読書感想っぽくないですね、ハハハ。

*ある程度の知識が必要⇒スマホを横において読んだ方がいいかも。

・冒頭の一文が「バベルの塔の再現。」というものですが、ピンときますか?
バベルの塔についてのエピソードを知らないと、「あ~、あのことか」と反応できません。
二文目以降に、その第一文の補足説明のような記述がありますが、やはり「バベルの塔」という言葉を見て、すぐにその含みを認識できる方が好ましいでしょう。

・有名な文学作品の登場キャラ、実在の人物なども出てくるので、アレっと思ったら、スマホで検索したほうがいいと思います。

*登場人物(+作者)の言語感覚や言葉との向き合い方を読者がどう評価するかがポイント。

・言葉・表現へのこだわりが随所にあらわれ、作家だから当然とはいえ、とにかく言葉や文章に執着する、一種の「言葉遊び」と言うべきか、「言葉との格闘」とも呼ぶべきものがこの作品の一つの大きなテーマだと感じます。

・最初に挙げた点の中で、第一文「ベベルの塔の再現。」もこの小説が「言葉」を重要な核としていることを示唆しているように思えますが。

・登場人物の言語感覚を読者が自分のものと比較してみてどう感じるかという読み方もできそうですね。

*出版社の注文に応じた読み方をしてみるのもいいかもしれません。

・この小説単行本の帯に「Qあなたは、犯罪者に同情できますか」という文言があります。
ちょっとだけネタバレで申し訳ないですが、「東京都同情塔」とは、実は、犯罪者を収容する刑務所なんですよ。
この小説の中に、ある登場人物の以下のような問いかけがあります。

Qなぜ、本来なら罰を与えるべき人々に対し、「同情」を与えるべきなのか?
Q「犯罪者」への同情は、被害者の感情を蔑ろにしてしまうものではないか?
Q受刑者の待遇を良くすると、犯罪が増えるのではないか?

このような問いに、読者なりの回答を頭の中でつくりながら読んでも興味深いと思います。
その意味では、犯罪における「加害者」と「被害者」の関係性を考える上で、様々な問題点を提起する面も持っている小説です。

*その他、いろいろな楽しみかたができますよ。

・AIが台頭する、一種の近未来SFとして読む人もいるかも。
・著者九段理江さんの地の文章と生成AIが作成した文を見分けることができるか。
・登場人物である米ジャーナリストの日本人・日本語に対する差別的ともみなされる発言に、日本人としてどう反論するか、それとも納得してしまうか。

評論ではなく小説なので、「あらすじ」等は明かさずにここまで来ましたので、この記事を読んでも具体的なイメージが湧かなかったかもしれません。
ただ、やはり、文学作品の場合はネタバレは厳禁であろうと思いますので。

ブログ主としては、本作品は「言葉」がすべての中心にあり、そこから作中の多様なテーマや論点が派生している印象を受けました。

一読してみて、さすが、芥川賞を受賞するだけのことはあるなあ、と納得しました。
140ページ程度の小説です。
時間に余裕があるかたは、手に取ってみてはいかがでしょうか。

もし、当ブログ常連の川口や磯貝がこの小説を読む機会があったら、また対談形式でその内容を紹介したいと思います。

最後に、ネット上で著者である九段理江さんを批判している人たちへ、
まず、この作品を読んでみてください。
おそらく、考えが変わると思います。