ラス・カサス(染田秀藤 訳)『インディアスの破壊についての簡潔な報告』岩波文庫 ~ 歴史好きなら必読!

歴史好きにはぜひ読んで欲しい一冊。
大航海時代の裏面史として貴重な資料である。
著者のラス・カサスは、当ブログにてすでに数回ほど登場。

しかし、本格的な紹介は今回が初めてとなる。
さて、このラス・カサス(1484~1566年)はスペイン人聖職者である。
この書を読むまでは知らなかったが、「インディオの使徒」とか「アメリカの父」などと讃えられているらしい。

スペイン人に虐殺されたり、奴隷として酷使されたインディオの惨状をスペイン国王に報告した。
そして、当ブログでも紹介した「エンコミエンダ制」の撤廃を訴えた。

ただし、忘れてはならないのは、ラス・カサス自身もかつてはコンキスタドール(征服者)として新世界で数々の征服戦争に参加し、インディオも支配しながら植民地開拓を行った前科を持つ事実。
つまり、「回心」して宣教師になったパターンである。

キリスト教者はこの「回心」を経て信仰の世界に入るというのが、古くにはパウロに見られる一種のお約束だ。
周知のように、パウロはユダヤ教徒としてイエスの弟子たちを迫害し、殺そうとまで考えていた。
その男が、ある日、天からの光に照らされてイエスの声を聞き「回心」する。
そして、イエスの弟子から洗礼を受けるのである。

話を本書に戻すが、まずラス・カサスが記録したスペイン人の悪魔の所業を少し引用する。

「キリスト教徒たちはインディオの身体を一刀両断にしたり、一太刀で首を切り落としたり、内臓を破裂させたりしてその腕を競いあい、それを賭け事にして楽しんだ。母親から乳飲み子を奪い取り、その子の足をつかんで岩に頭を叩きつけたキリスト教徒たちもいた。また、大笑いしながらふざけて、乳飲み子を仰向けに川へ投げ落とし、乳飲み子が川に落ちると、『畜生、まだばたばたしてやがる』と叫んだ者たちもいれば、嬰児を母親もろとも剣で突き刺したキリスト教徒たちもいた」

宗教に詳しいとされる学者や専門家の中には、「一神教が特別に恐ろしいとか、好戦的だとか、残酷であるとか言うのは俗説だ。酒場談義レベルのつまらない意見だ」と主張する者もいる。
しかし、歴史を多少なりとも振り返ると、一神教(の信者・国家)が引き起こした戦争、紛争、テロ、他民族の殲滅、他国の植民地化など、数えきれない程の理不尽で残虐な行為にブログ主の目は止まってしまう。

同書から、もう少し引用する。

「さらに、足がようやく地面につくぐらいの高さの大きな絞首台を組み立て、こともあろうに、我らが救世主と十二名の使徒を称え崇めるためだと言って、インディオを十三人ずつ一組にして、絞首台に吊り下げ、足元に薪を置き、それに火をつけ、彼らを焼き殺したキリスト教徒たちもいた」

この部分を読んだ時、真っ先に感じたことは、イエスとその十二使徒が歴史上存在していなかったならば、インディオたちが十三人一組で焼き殺される地獄は現出しなかったであろうということだ。
素人を自認しているから、「お前の意見は俗説だ。酒場談義だ」と専門家から言われても構わない。
それでも率直に言って、現時点における私の印象は、「一神教は怖ろしい。異民族や異教徒を平気で殺すのが一神教の本質かもしれない」である。

この書物は『簡潔な報告』と題されているが、実際は悪鬼どもの残忍な行為を具体的に詳述している。
ページを繰ると、地獄の閻魔様も真っ青な悲惨な光景が次から次に眼前に展開する。
残虐、凶悪、非道、残酷、暴虐、、、どんなに類義語を並べてもとうてい表現できない場面の連続だ。

読みながら、考えたのは、なぜキリスト教徒は神の名のもとに平然と殺戮行為を繰り返すのか?という疑問だ。
素人ながら、個人的な仮説がある。

それは、教祖イエスが処刑されたからではないのか?
多くの国で国教化されるまでには、あまたのキリスト教徒が弾圧され殺されたからではないのか?
その復讐の矛先を、無関係の異民族・異教徒に理不尽にも向けているのではないのか?

お釈迦様は、食あたりによる下血(キノコだと伝えられる)で亡くなられた。
仏教徒が暴力を行使する際に、お釈迦様の名前をわざわざ挙げるだろうか?
お釈迦様を称え崇めるために異教徒にキノコを食べさせて殺害しようとするだろうか?
するわけがない!

では、なぜ、キリスト教徒は「我らが救世主と十二名の使徒を称え崇めるために」とわざわざ断って、「十三人ずつ一組にして」多民族を縛り首にしながら火炙りで殺すのか?
教祖や信者が弾圧され、処刑された歴史が遠因となっているのではないのか?
心理学にはまったくの門外漢だが、イエスや殉教した聖人たちの非業の死となんらかの関係があるのではないか、と勘繰りたくなる。

根拠のない推測はさておき、最後に、スペイン人の自分勝手な、あまりにもご都合主義的で、卑怯千万な行為を本書から紹介する。
それは、「降伏勧告状 レケリミエント」を朗読することがインディオ征服を正当化するという意味不明で一方的な屁理屈である。

この降伏勧告状とは、インディオに対してキリスト教徒になり、スペイン国王に臣従するように勧告する文書である。
その文言には、従わなければ即刻にスペイン人側から戦争を仕掛けてインディオを殺したり、奴隷にしたりするなどの内容も盛り込まれていた。

この文書をスペイン人が、昼夜構わずに、カスティーリャ語で一方的に読み上げるのである。
当時のインディオたちにスペイン語が理解できたはずがない。
勧告文を朗読した後、少し時間をおいて、インディオが何の反応を示さないのを確認してから、スペイン人は大手を振って略奪・虐殺に手を染めたのである。

冗談のような本当の話。
歴史上最低、最悪の茶番であろう。

この書は多くの日本人に読んでもらいたい。