古の支那には、竹林の七賢がいたという。
さて、現代日本に目を向ければ、その風格においては先哲にも匹敵する、磯貝老師がおわします。
もう一人の岡谷修行僧も在家信者でありながら、日々、読経と写経に専念する毎日。
今回は、世界五大宗教のうちから、三つを選んで自由闊達に語ってもらうという次第。
岡谷修行僧:老師、お久しぶりです。
お元気そうでなによりで、、、今日はユダヤ教、キリスト教、イスラム教について基本的なことから教えていただければ。
磯貝老師:では、早速、話を始めると、三つの一神教を成立順に並べたら、ユダヤ教⇒キリスト教⇒イスラム教となる。
ユダヤ教が一番古い。
岡:ユダヤ教の成立はいつ頃なんですか?
磯:うん、ユダヤ人は前11世紀末頃にヘブライ王国を建国した。
その最盛期に、首都イェルサレムにヤハウェ神殿を建設して、崇拝したんだよ。
岡:あ、その「ヤハウェ」がユダヤ教の唯一神ですね、さては。
じゃ、その神殿の完成を以て、ユダヤ教の成立と見なしたとしても、3000年を超える歴史があるんですね。
なんと、仏教よりも古いな。
磯:うん、専門家の言うには、紀元前12世紀ごろにパレスチナに同一の神を信仰する部族連合が生まれたらしい。
この集団が、イスラエル民族の起源らしいんだ。
となると、その時代からヤハウェ神を崇拝しているから、「信仰」という形での歴史は岡谷修行僧の言う通り。
岡:なんか、奥歯にものが挟まった言い方ですね、老師。
え、でも、改めて3000年を超えるとなると、、、神武天皇も真っ青じゃないですか。
今年・令和6年を皇紀でいうと、2684年ですからね。
まあ、日本の場合、いわゆる神話をたどれば、もっと古い時代まで遡ることは可能ですが。
磯:まあ、確かに。
その辺は、またの機会に譲るとして、話をユダヤ教に戻すぞ。
で、ヘブライ王国以降の話をさせてもらうと、これが、前922年頃にイスラエル王国とユダ王国に分裂して、さらに時代が下がると、前者はアッシリアに後者は新バビロニアに滅ぼされた。
当然、ヤハウェ神殿も破壊される。
岡:その辺は、世界史で習ったような記憶が。
なんか、「バビロン捕囚」とか関連事項じゃないですか?
国を滅ぼされたユダヤ人がバビロニア地方に捕虜として強制移住させられたとかなんとか。
あれ、バビル二世とか、バビルの塔とか、なんか昔、ありましたよね、老師~。
磯:おう、横山光輝原作のな、俺も好きだったんだよ、あの漫画もアニメも。
「怪鳥ロプロス、空を飛べ~、ポセイドンは海を行け~、ロデム変身、、」って、おい!
岡、いや~、老師もノリがいいですね。
でも、なんか関係がありそうですけど。
磯:実は、関連アリなんだよ。
旧約聖書の「創世記」の中に、「バベルの塔」という巨大な塔が登場するんだよ。
多くの専門家は、神話上の創作として片づけるんだが、一部の研究者は紀元前6世紀のバビロンのマルドゥク神殿に築かれた聖塔の遺跡が関係しているのではないかと考えているようだ。
岡:へえ~、旧約聖書はもちろん、ユダヤ教の聖典だし、「バビロン捕囚」と時代も場所も合ってますね。
実在したのかも。
ふ~ん、すると、横山光輝は旧約聖書の「創世記」を読んでたんだな、おそらく。
あ、「バベルの塔」といえば、ここのブログ主押しの九段理江という作家の芥川賞受賞作『東京都同情塔』の冒頭の一文が、「バベルの塔の再現」でしたよ。
磯:だな、まあ、有名な話だからな。
で、そろそろ本題に戻るぞ。
さて、新バビロニアがユダ王国を滅亡させたのが、前586年。
国は滅んだし、自分たちは捕囚民となるし、ユダヤ人の歴史は苦難の歴史だよな。
岡:紀元前6世紀ごろか、、、支那で孔子が生まれたのが、前552年とか551年とかだったな。
ユダヤ人の「バビロン捕囚」時代とだいたい同時期だと覚えておけばいいな、うん。
あ、老師、知ってますか、孔子って父親が70歳過ぎの時の子供なんですよ。
しかも、母親はその当時、まだ十代!
磯:そうらしいな。
孔子の母親は、身分の低い16歳の巫女であったという説がある。
まあ、その他にも諸説あってな、、、って、おい、脱線させるな!
岡:失礼しました。
では、続きをお願いします。
磯:え~と、バビロン捕囚から解放されたのが、前538年。
パレスチナの地に帰って、イェルサレムにヤハウェの神殿を再興したわけだ。
岡:老師、ユダヤ人はすんなり自由の身になったんですか?
磯:それはな、アケメネス朝ペルシャのおかげなんだ。
前539年にペルシャが新バビロニアを滅ぼして、バビロンを開城したから、前538年にユダヤ人が捕囚から自由の身になったというわけだ。
岡:なるほど~、あ、アケメネス朝といえば、ゾロアスター教ですね。
さて、ここで老師に問題です、「ゾロアスター教と縁もゆかりもある自動車メーカーはどこでしょう?」
磯:おい、おい、岡谷修行僧よ、俺を誰だと思ってんだよ。
日本の「マツダ」に決まってんだろ!
マツダ=MAZDAで、この「MAZDA」は、創業者の松田重次郎氏がゾロアスター教の善神(光明神)であるアフラ・マズダ(=Ahura Mazda)と自分の「松田」を掛けて、社名にしたんだよ。
こんなの常識だぞ、、、、でも、今回の脱線はいい脱線だな。
岡:え、どういう意味です?
磯:うん、ゾロアスター教は、この世は、光明神アフラ・マズダと暗黒神アーリマンとの絶え間ない闘争で、、、云々と説いているのは知ってるだろ。
実は、ゾロアスター教には「最後の審判」の概念があるんだ。
岡:あれ、最後の審判ってのは、ユダヤ教にもキリスト教にもある、あれでしょ。
世界の終わりに、人間が審判にかけられて、天国行きか・地獄行きかを決められるとかなんとか、、、
磯:それだよ、それ!
そもそもの話が、ユダヤ教やキリスト教の「最後の審判」はゾロアスター教の教えの影響をもろに受けていると考えられているんだ。
だから、終末論的世界観の元祖は、どうもゾロアスター教らしんだな、これが。
じゃ、逆に、俺から岡谷修行僧に問題、「ゾロアスターと有名な哲学者のニーチェとのちょっとした関係は何だ?」
岡:そう来ましたか、老師。
これは、たまたま知ってるんですよ。
ニーチェの著作『ツァラトゥストラはかく語りき』の「ツァラトゥストラ」のことでしょ?!
元々、「ゾロアスター」はペルシャ語の「ザラスシュトラ」のギリシア語表記を英語読みしたもので、「ザラスシュトラ」をドイツ語読みすると「ツァラトゥストラ」となる次第。
磯:流石だ、岡谷修行僧。
まあ、蛇足だが、このニーチェの著作に触発されて、ある有名作曲家が、、、
岡:ずばり、リヒャルト・シュトラウスが同名の交響詩を作曲してます。
そう、映画『2001年宇宙の旅』で使われた、例のやつ。
磯:なんか、小ネタ披露の回みたいになってきたな、ハハハ。
さあ、また本題に戻ろう。
とにかく、ユダヤ人の運命は過酷で、大昔にエジプトで奴隷状態にあったのをヤハウェの啓示を受けた英雄モーセが救い出したとかの伝承が旧約の「出エジプト記」にあるし、前述の「バビロン捕囚」という苦難も経験している。
ただ、どんな苦しいときでもユダヤ人はヤハウェ信仰を堅固に保っていたそうだ。
岡:唯一絶対の神であるヤハウェか、、、、
何だかな~、『般若心経』の徒を自認する身としては、理解しがたい感覚ですかね~。
そもそもの日本人の感性って、大本が「八百万の神」がどうのこうのだから、、、、
一神教は日本人には相性が悪いんじゃないんですかね。
磯:そうは言うけど、日本にも一神教的な宗教というか宗派はあるだろ。
ヒント、鎌倉仏教。
岡:う~ん、、浄土宗、浄土真宗、日蓮宗、臨済宗、曹洞宗、、、
ん、そういえば、浄土系統って、信仰の中心が阿弥陀如来で、それ以外の諸仏はほとんど重視しませんね。
もしかして、、、
磯:浄土宗や浄土真宗の教団側は認めたくないだろうが、浄土系の「一神教的性質」を指摘する研究者は少なからずいるよ。
だって、冷静に考えてみたら、阿弥陀様という一つの仏(≒唯一神)に帰依して救いを求めるわけだろ。
岡:言われてみると、確かに。
磯:今回はこれ以上は触れないけど、浄土系統とキリスト教の近似性を指摘する専門家もいる。
じゃあ、キリスト教に移るか、、、ユダヤ教のキーワード「選民思想」「律法主義」等は、また次回にでも、、、
岡:え、次回もあるんです?
磯:だって、ユダヤ教の説明が中途半端だからな。
では、キリスト教に移るとな、、、これはユダヤ教世界の中から生まれたと考えていい。
開祖とされるイエス(前4年頃~後30年頃)が1世紀に活動した人物だから、ユダヤ教がすでに何百年間も信仰されていた環境から派生したもので、キリスト教はユダヤ教の一分派としてスタートしたようなもんだ。
なんせ、イエス自身もユダヤ人だからな。
岡:老師、「イエス!」と言えば、高須クリニックですね。
磯:まったく、岡谷修行僧は話を逸らそう、逸らそうとするな、今日は。
高須クリニックの「イエス」は「Yes」で、「イエス・キリスト」の英語表記は「Jesus Christ」!
岡:Oh, my god!
磯:いやはや、、、
岡:で、三つの中で一番最後に登場したのがイスラム教ですね。
開祖ムハンマド(570年頃~632年)が6~7世紀に生きた人物ですからね。
ユダヤ教はイスラエル人(≒ヘブライ人≒ユダヤ人)の民族宗教で、開祖は特定できないが、キリスト教とイスラム教はそれぞれ、イエスとムハンマドという実在した人物が開祖というわけで、、、
磯:なんだよ、急に真面目になって、、、まあ、いいか。
本当に大雑把に言うと、この三つの宗教は親戚同士なんだな。
さっきも言ったように、ユダヤ教からキリスト教が派生して、先行の二つの影響を受けて生まれたのがイスラム教。
だから、三つとも、「天地を創造した唯一の神」という基本線がある。
岡:三つとも一神教みたいですが、その唯一神は同一なんですか?
さっき、ユダヤ教の神「ヤハウェ」が登場しましたけど。
磯:まあ、同じと考えていいだろう。
イスラムの聖典『クルアーン』では、アッラーはイーブラヒムが信仰した神だとされている。
この「イーブラヒム」というのは、ユダヤ人やアラブ人の祖とされる「アブラハム」のことだよ。
岡:アブラハムって、旧約聖書に登場する、例の「アブラハム」ですね。
磯:その通り。
だから、アッラーがアブラハムの信仰した神とするならば、それは、ユダヤ教徒が信仰するヤハウェと同一のはずだ。
そして、キリスト教はユダヤ教から派生しているから、キリスト教徒にとっての「主」「父なる神」はユダヤ教徒の神、すなわち、ヤハウェとなるな。
岡:なるほど。
順を追って説明されると、わかるんですけど、イスラム教では「アッラー」となるから、今まで同一神だとは気づきませんでした。
磯:ここのブログ主も書いているように、「アッラー」は「神」を意味する普通名詞だからな。
固有名詞じゃないんだよ。
だけど、日本では「アッラーの神」などの誤用がかなり定着してしまっているから、それが原因だ。
ただし、ただしだ。
以上の説明は、あくまで、現代の我々からみた解釈だし、後発のイスラム教からの視点だと考えたほうが無難だ。
岡:え、、、それは、、、
あ、そっか、ユダヤ教の確立(=ヤハウェ神殿の再興)が紀元前数百年の時代で、キリスト教は1世紀に誕生して、イスラム教の成立は7世紀でしたね。
ユダヤ教徒やキリスト教徒からすれば、自分たちの神がイスラムの「アッラー」と同じだという認識があるはずないですね。
磯:そういうこと。
よし、じゃあ、一回目の今日はこんなもんにしておこう。
そろそろ、晩酌の時間だ。
岡:そうしましょう。
拙僧も、そろそろ『般若心経』を読経する時間です。
老師、本日は、ありがとうございました。
また、次回、よろしくお願いいたします。
磯:うん、結構、脱線もあったけど、楽しかったよ。
また、ぜひ、やろう。