「こんばんは」と挨拶をして、玄関ロビー近くの談話室に入る。
えっと、空いてるところは、、、
お、松木の隣にするか。
ん? 松木?
「おい、松木、おまえ今日電話当番じゃないのか」
「おう」
「なにが、『おう』だよ。テレビ観てる場合じゃねーだろ。電話番しろよ」
「ええて! 電話が鳴ったら、すぐとるで」
ふざけた野郎でね~、この剣道部の松木ってヤツは。
巨漢かつ巨頭、パチンコ狂いで借金魔。
でも、なんか憎めないんだよね。
よく、近くの中華で一緒に飲んだなあ。
リ~ン、リ~ン、、、、
と、今日も電話番でもないのに、Kが近くでウロウロ。
電話をとった松木が、「Kさん、電話です」とそばにいたKに受話器を手渡す。
毎日、毎日、よくかかってきますこと。
このKは学生ではなく、大学運営団体の関係者(うちは私学)で年も20代後半。
「また、Kに電話かよ。長いぞ~」と川口がつぶやく。
電話ブースを覗きにきた中谷先輩がKの姿を見て、「チッ」と舌打ち。
「外の公衆電話に行ってくるわ」と出かけていく。
一台しかないピンクの電話は大人気、でトラブルの元。
時折、「長電話はひかましょう」と掛け声はでるものの。
なかなかね~。
守られたためしがない。
また、Kの場合、いつも女性からの電話だというのも、皆がムッとする原因。
なんで、アイツばっかり女から電話もらうんだよ!ってやっかみの気持ちが強かったのかな?
あと、年上だけど大学の先輩ではないから、文句が言いやすかったわけ。
やっと、Kが受話器を置いたと思ったら、今度は十円玉をジャラジャラさせながら、望月登場。
こいつは、いえ、この先輩も長電話でね。
まあ、いいか、今日はどこにも電話する予定はないし。
当番の松木はというと、余裕こきまくってドラマにくぎ付け。
この野郎、自分が今日の係だということすら忘れてるんじゃないのか?
と、ブースのところが少々騒がしい。
なんか揉めてるぞ。
あ、望月、オッと、望月先輩と同期のテニス部の「色黒」先輩が言い争ってるじゃないの。
いいぞ、やれやれ!
「おまえさ、人が電話してるときに、ブースをノックするなよ」
「もう、20分待ってんだよ、いいかげんにしろよ」
「急用なんだよ、こっちは!」
「急用で、20分も話が続くか!」
同期でも仲が悪いとこうなります。
ハハハ!
と、また、Kがブース近くをウロウロ。
「私に、電話なかった?」とでも言いたげな表情。
見りゃ、わかるだろ、ずーと使用中だよ!
望月先輩の後の色黒先輩も長電話で、ピンクの電話はずーと話し中。
何人もの寮生がブースを覗いては、諦めて部屋に戻るか、外の公衆電話ボックスへ。
そうこうしているうちに、時刻も午後10時に。
「いや~、当番が終わったな~」と松木。
「おまえ、テレビ観てただけだろ」
「なんか、腹減ったな」
たいして仕事もしていないくせに、いっちょ前に腹だけは空かせやがって。
あきれた野郎だけど、長電話の常連が続いたから、松木の出番が無かったのも事実。
「東田がバイトしてるから、『美ゆき』でも行くか、それか、『華名閣』でギョーザか」
「『華名閣』のポークでビールでも、、、」
「おまえ、ところで、金あんのか?」
「う、、」
なにが、「う、、」だよって言いたかったけど、なんか憎めないんだよな。
「じゃ、華名ポークとギョーザでビールやるか」
こんな感じで、松木とはよく飲みました。
寮生活っていいですよ。