すぐ手が出る人って嫌ですよね~  寮生活は厳し!

「おまえら、うるせーんだよ!」
「あ、松川先輩、こんば、」

「んわ」と言い終わらないうちに、米長の左顎に松川さんの鉄拳がクリーンヒット!
たまらず、廊下に倒れこむ米長。

ゾォ~! 噂以上の手の早さ!
「すいませんでした!」と東田と私は直立不動。

「夜、デカい声で話されると、ローカに響くんだよ」
「申し訳ございませんでした」

と、その階の奥部屋のドアが開き「松川、なに大声出してんだ」とA棟チーフの大神先輩。
「いや、一年坊主がうるせえから、ちょっとな、、」

あちゃ~、寮のナンバー2のお出ましですよ。
こりゃあ、まとめて鉄拳かビンタかそれとも、、、

「松川~、あとは俺がやっとくから、おまえは部屋にもどれよ」
「おう、じゃあ、大神にまかせるわ」

ようやく倒れた体を起こしつつもまだ床に胡坐をかいた状態の米長が頭を軽く振っている。
「おまえら、外で飲んできたのか」と大神先輩。

「はい、久保田でちょっとだけ飲みました」
「ふ、『ちょっとだけ』ってか?」となんか楽しそうな顔つきの大神さん。

「すいません」
「ま、飲んで帰って来たら、ローカでは静かにな、あ、米長、大丈夫か」と大神先輩。

「あ、はい、大丈夫です」
「じゃ、おまえら部屋に戻れ」の言葉を残して、こちらに背を向け自室に向かう大神さん。

鉄拳か、正座+説教を予想していた三人は少々、拍子抜けというか、、、
正直、ホッとして顔を見合わせる。

とりあえず、今度は無言で米長の部屋へ。
東田も私も米長に申し訳ない気持ちで、「米長、ごめんな、おまえだけ殴られて、、、本当に悪かった」

「いや、それは別にいいんだけど、、、」
「すまなかった、勘弁してくれ」

「いや、本当にそれはいいんだよ、ただ、、見えなかったなあ、松川さんのパンチ」
「見えなかった」と繰り返した米長。

殴られたことよりも、先輩の拳を見切れなかったことの方がショックというか悔しそうな表情を見せる。

松川先輩は四年で野球部、とにかく「すぐ手が出る」と悪名高き要注意人物で、その犠牲者は数知れず。
一方の米長は大学に入る前は少々ヤンチャ(暴走族)で、実戦空手の経験者でもある。

「いや、不意打ちみたいなもんだから、しょうがないよ」と声をかけるも、見えない一撃を喰らったことにプライドが少し傷ついている様子。

それにしても、松川さん、表現としての「手の早さ」と物理的な「パンチの速さ」を兼ね備えている。

その日はそれでお開き。
翌日、東田と二人でB棟チーフの堀江先輩の部屋に呼ばれて、ビールをごちそうになりながら事の顛末を説明。

堀江さんは四年でハンドボール部、188センチの長身、性格は極めて温厚で酒好き、後輩思いの寮ナンバー2。
「松川はちょっとやり過ぎだよな~、いきなり手を出すのはよくないよ」と堀江さんらしいコメント。

さらに、堀江先輩は、米長が暴走族の過去を隠さずに、今もナナハンを愛車にして目立っていることを指摘。
その辺が松川さんの癇に障っていたのではないかと言う。

要は、いい機会だから、ちょっと懲らしめてやれ、と思ったのではないかってこと。
それでも、いきなり鉄拳はどうかと思うけど。

すぐ手が出る人って嫌ですよね~!

さらに、後日、我らが「変態」中谷先輩の部屋でこの話題を出すと、いつになく真剣な面持ちで松川さんがらみの事案をアレコレと解説。

つい、東田が「中谷さんも真面目な話ができるんですね~」と感心した瞬間、サッと立ち上がった中谷先輩。
こちらに背中を向けたと同時にズボンと下着を一気に下げ、お尻を丸出し!

ベロ~ンとお出ましになられた白い尻を眼前にして、つくづく思いました。

すぐ手が出る先輩は嫌だ~。
でも、すぐ尻を出す先輩も嫌だ~!

寮生活は厳し!