まず、以下の文章を読んでいただきたい。
戦前の学者によるものなので、少しばかり古風な日本文だが、それほど難しい内容ではない。
⇒「日清戦争は、日本の平民にとりて大いなる負担であった。彼らはこの戦に疲れざるを得なかった。けれども日本の官僚並びに政党は、この疲れたる平民を休養せしめ、彼らの辛苦に酬(むく)うべき政治的乃至社会的施政を行わなかった」
⇒「日本の政治家は、日清日露の両役に疲弊せる平民を慰撫(いぶ)し、その福祉を増進するために、千々に心を砕くべき筈であった。妻子を飢え泣かせた者、出征のために家産を倒せる者、老親を後に残して屍を異境に曝(さら)せる者は、実に幾十万を算した。戦争の悲惨は平民のみよく之を知る。けれども彼らは与えられるところなかった。また与えられて十分でなかった」
日清戦争や日露戦争で、当時の一般国民がいかに苦難の道を歩んだのかを伝え、そして、その救済に動かなかった政治家、政党、官僚を批判した文である。
さて、この筆者の政治的立場は?
左翼かリベラルかと判断する人が多いのではないだろうか。
正解は、、、、、、大川周明(1886~1957)、そう、戦前の有名な右翼の巨頭である。
しかも、戦後の著作ではなく、昭和14年刊行の『日本二千六百年史』の一節だ。
では、大東亜戦争に関して述べた、次の文章の書き手の思想的な立場は?
⇒「日本が立派にやりとげたことは、アジアにおける植民地帝国の十九世紀的構造を破壊することであった」
⇒「戦時中日本人によって占領されていた土地のうち、ただの一つも(旧主人のヨーロッパ人によって)満足に取り戻されたものはなかった」
⇒「日本が敗れる前に、全極東にわたる古い均衡とヨーロッパ帝国主義支配の構造を破壊したという事実こそ、日本が最後に敗退したという事実に劣らず、重要なものである」
右翼もしくは保守陣営の論客が大東亜戦争を肯定している文章であろうか。
または、旧帝国海軍か陸軍の上層部に属する人物のコメントであろうか。
正解は、オーエン・ラティモア(1900~1989)。
アメリカの中国学者であり、戦後は米国内の「赤狩り」の標的にもなった人物。
告発は却下されたものの、当時の米では危険視されるほど中国寄りの左翼学者と考えられていた。
では、別の人物の発言を見ていこう。
大東亜戦争中の事例のようだ。
⇒「戦争はありがたい。戦争は価値の標準を正しくしてくれる。そして、人間の心に等しく豊かさを与えてくれる」
⇒「戦争はありがたい。あり余る物によって却って心を貧しくされがちな人間の弱点を追い払って、真に豊かなものを与えようとしていてくれる」
⇒「無敵皇軍。何がいけない。ははゝゝゝ無敵皇軍を不穏だなんて言った腰抜野郎、今こそ出て来い。神国日本は開闢(かいびゃく)以来無敵なんだ。それを英米の傲慢野郎に気兼して、無敵皇軍と云っても書いても不可ないなんて、そんなべらぼうな話があるかってんだ」
以上の文章を発表した人物は、右翼か、それとも極右か、それとも陸軍の青年将校であろうか。
答は、、、、、、女性作家の住井すゑ(1902~1997)である。
この住井という小説家は、差別問題に真摯に取り組んだ人物として有名だ。
戦中は、戦争肯定派らしい発言をしたものの、8月15日を境に完全に転向して左翼陣営に参加したようだ。
大東亜戦後は皇室批判を繰り返し、朝日新聞に重宝され、反体制派からは「住井先生は日本の宝です」と讃えられた。
節操の無さ、変わり身の早さにおいては、類まれなる存在といえよう。
最後に、個人ではなく、ある企業の事例を以下に挙げる。
⇒「傷痍(しょうい)乗り越え「増産」三勇士に表彰状伝達式
傷痍にも屈せず決戦下の職場で武勲を誇らず黙々と増産に挺身敢闘する職場の模範傷痍軍人を顕彰し銃後の感謝と奮起を促すため本社はさきに「職場の傷痍軍人顕彰会」を社内に設け、軍事保護院、陸海軍省、情報局後援のもとに既報のごとく全国百十六名の職場の傷痍軍人を顕彰する旨発表、、、、、、、」
*傷痍とは、戦争で負った傷のこと
*銃後とは、戦地に赴かずに内地を守る側をあらわす
戦地で負傷して、日本に帰還し、現在社内で模範的な働きをしている傷痍軍人を顕彰するとの文章である。
この「本社」とか「社内」とは、どんな会社・企業であろうか。
軍需関係の工場であろうか、それとも、国粋主義者が経営する会社であろうか。
正解は、朝日新聞である。
上記の引用文は、昭和19年3月の朝日新聞の記事からの抜粋だ。
戦前の朝日の記事は、完全なる戦争肯定、靖国神社賛美の論調で溢れんばかりであった。
現在の姿からは想像もできない程、戦前には大東亜戦争を肯定し、「米英撃つべし」と唱え、「贅沢は敵だ」と国民を鼓舞し、戦意高揚を図ったのが、戦時中の朝日新聞である。
戦後は、見事なまでの掌返しを見せ、GHQにおもねり、自ら率先して戦勝国のプロパガンダを宣伝し、マッカーサーに忖度して、進んで自己検閲(=GHQの意向に沿った紙面づくり)に邁進した売国奴新聞社だ。
前述の住井すゑと同様、節操なき変わり身の素早さにかけては、超一流の存在であろう。
まあ、朝日批判は今回はここまでとしたい。
戦中の朝日新聞による戦争賛美に関しては、いくらでもネタはあるので。
では、本記事はこのあたりで締めよう。