「おい、ご飯が残ってないぞ」
「なんだよ、またかよ~」
寮の食堂が騒がしい。
「くそっ、米騒動おこすぞ!」とは川口の声か?
「お~い、どうした?」と言いつつ食堂を覗くと、普段は冷静な川口が真っ赤になって怒りを露わにしている。
「これ、見てくれよ。米が入ってないんだよ!」
巨大なおひつの中には、ほんのわずか申し訳ない程度のご飯粒が端っこにへばりついている。
うちの寮の「遅食」あるあるでございます。
我らが寮の「遅食」とは、部活やバイト等の事情で夕食時間に間に合わない寮生のために、ご飯とおかずを取り置きしてくれるシステム。
朝、寮を出るときに「遅食届」を食堂にだしておくと、皿に盛ったおかずが遅食の人数分用意される。
だから、基本、おかずは一人一皿で準備されるから心配なし。
問題は米。
食堂のおばちゃんたちが、遅食の人数分に見合うように特大のおひつにご飯を入れておいてくれるのだが、、、
そこは、十代後半から二十代前半の食欲の塊、言わば「餓鬼」のような寮生たち。
早めに遅食にありついた者から、何杯もお代わりして腹いっぱいに米を詰め込むのが当たり前。
時折、「遅く帰ってくる人のために遅食のご飯は各自、控えめに」などの声が挙がるものの、、、
無理、無理、そんなの無理ですから。
皆、「これぐらいいいだろう」と軽~い気持ちで、ガツガツ食べる毎日。
気づけば、おひつの中は空っぽ!
それが、今回の川口の「米騒動おこすぞ!」につながるという次第。
「おかずだけ食っても俺の腹は満足できんぞ!」と川口。
「とりあえず、おかずだけここで食べてさ、部屋でラーメンでもつくるか」と宮崎のS。
「う~ん、やっぱり米だな、米がないと、、、」
そこへ、「どしたん?」と登場したのが中谷先輩。
我が寮が世界に誇る変態にしてイケメンかつ後輩思いの先輩。
事情を聞き終えた中谷さんは、「俺、今からレバニラ炒め食べに行くけど、一緒に来るか?」
「はい、お供します!」と全員で声をそろえる。
パッパッと三人は遅食のおかずを一気に片付ける。
いや~、持つべきは心優しき変態、いや、先輩ですね。
こちらが出るのと入れ替わりに、また新たに二人の遅食組(=犠牲者)が食堂に入っていく。
顔を見合わせる川口、S、そして私。
「ぎゃ~、ご飯が残ってないぞ」
「おい、どうすんだよ!」
お二方の悲痛な叫びを背にしながら、なぜかちょっとした優越感など感じる我ら三人。
中谷先輩が声かけてくれてよかった~、とつくづく感謝したものです。
足取りも軽く、意気揚々と寮を出る。
バイト先のバンを愛車代わりにしている中谷さんの運転で、先輩お勧めの中華料理店へ。
中華飯、天津飯、カレーチャーハンなど「メシもの」も注文してそれぞれ舌鼓。
川口も大満足して、「やっぱり、米! 日本人は米を食ってなんぼだよ!」とすっかり笑顔。
その店のレバニラ炒めは確かに逸品でした。
中谷先輩、ありがとうございました。
先輩のおかげで、川口が米騒動をおこさずにすみました。
それにしても、「美味い、美味い」と言いながら、レバニラ炒めだけを何皿もお代わりした中谷さん。
先輩、流石です。